「本気か」



「ええ」



イギリスの問いを、彼女は感情の篭らない声で肯定した。
彼女の後ろに立つイギリスに、その表情はわからない。
ぴん、と芯の通ったうなじから、真っ直ぐ正面を見据えているであろうことはわかるが。
「…………」
かつてならば、彼女の真白いうなじは、腰までの赤みがかったブロンドの髪に隠されていたのに。
「……どうして」
「どうして?」
彼女はどこか楽しそうにイギリスの言葉を反復する。
「…今ならまだ間に合う。やめろ」
「やめないわよ」
彼女は、今度はきっぱりと否定した。
「やめない」
「どうして!」
イギリスはぎり、と拳を握りしめた。
「あいつらが間違ってるんだ。お前だって自由に生きていいはずだろう!恋をして、結婚して、家庭を持って……!」
「誰と」
彼女の声は、冷たかった。それがイギリスを冷静にさせる。
「誰と、結婚するっていうの?フランス?スペイン?それとも誇り高き紳士のどなたか?」
彼女が振り返る。
白く塗り込まれた顔の中、澄んだ翠の瞳がイギリスを見つめている。
その瞳に、イギリスはたじろいだ。あの少女が、いつの間にこんな瞳をするように。
「そんなの、まっぴら」
彼女は吐き捨てるように言った。
「貴方が消えるなんて、耐えられない」
私も自由に生きていいって、さっき言ったでしょう。彼女は続ける。

「だから、私は私の意思で、こうするって決めたの」



貴方と、結婚するって。



彼女は微笑んだ。イギリスは思わず目を逸らす。
「俺は……」
イギリスは強く目を瞑る。まぶたの裏に浮かんだのは、幼き日の彼女。野山で同じ年頃の娘達と、ころころと笑い転げていた頃の。
「お前から、母親の生命も、父親の愛情も、生活の安寧も、そして愛する者も……奪ってしまった。俺は、」


お前に、幸せになってほしいんだよ。


イギリスの声は震えていた。
「私は」
彼女は、少し首を傾げる。
「私は、幸せよ?」
その言葉に、イギリスははっと顔を上げる。
「貴方と共に在ることが私の幸せ。貴方が消えないでいることが私の幸せ」
さぁ、着替えなくちゃ。彼女は立ち上がる。
だがイギリスは未だ納得していない様子だった。
それに気付き、彼女は苦笑して、言い放った。

「私は、この国の女王よ」
その声音は凜と澄んでいて、


「貴方は、私が守る」


イギリスはその言葉に瞠目する。
だが微笑んで、彼女の前に跪き、手の甲にキスをした。


「我らが女王の、心の侭に」













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