彼女は窓辺に頬杖をつき、ぼんやりと外を眺めていた。
「おい」
イギリスが声をかけても反応しない。
いらいらと聞こえるように溜息を吐くと、彼女は気だるげに振り向いた。
「……ねぇ、やっぱり愛する人と一緒にいられないということは、幸せではないのかしら」
唐突に彼女は呟いた。イギリスが眉を思い切り顰めるのも構わずに、彼女は続ける。
「お母様と一緒に城で過ごした日々は、私にとっては幸せだったわ。お父様がいて、血はつながらないけれどお母様がいて、私を嫌っていたけれどお姉様がいて、エドワードがいて。あの頃は幸せだったと、私は思うわ、でも」
そこで彼女は少し躊躇った。だがひとつ首を振って、また口を開いた。
「お母様は、お父様に見初められて、恋人と引き離されて、私たちの面倒を見て、お父様の面倒も見て。お母様は笑っていたけれど、でも、幸せだったのかしら」
幸せではなかったから、お父様が死ぬとすぐに昔の恋人と結婚したのかしら。
「私は、お母様の幸せを奪っていたのかしら」
「……お前は」
イギリスは独り言のようにぶつぶつと呟き続ける彼女に、やはりいらいらと告げた。
「そのことに、罪悪感を覚えているのか」
「…いいえ?」
彼女は不思議そうに首を傾げる。
「だってお母様も私から幸せを奪ったわ。私は家族で暮らせたらそれが一番良かったのに」
先の王が死んだ時点でそれは無理だ、とイギリスは口には出さなかったが苦々しく思った。
「じゃあ何でそんなことを言う」
「ねぇ、『恋人』は、私に幸せをくれるのかしら」
彼女は文脈をまるきり読んでいないような発言をし、嘆息した。
「『恋人』と一緒にいることが、幸せということかしら」
イギリスはついにぎりと奥歯を噛み、声を荒げた。
「それがお前が母親の恋人を寝取った理由か!?」
「あらやだ、先に私のお母様を寝取ったのはあっちよ?」
彼女は平然と答え、イギリスは唖然とする。
「お母様に幸せをくれる人だから、私にも幸せをくれると思ったのだけれど」
うまくいかないものね。彼女は微笑んだ。
「そんなことを言えるお前の神経が俺は理解できん……」
がたん、と椅子が振動した。高く響く馬の鳴き声。
「……嵌ったみたいだな」
「そのようね」
馬車の窓からイギリスが顔を出して確認すると、馬のうちの一頭がぬかるみに足を嵌めて悶えていた。
「全く……お前のせいで、せっかく平和に暮らせていたと思っていたのにまた引っ越しだ」
「そう言うなら私についてこなくてもいいのに。今の王はエドワードだし、貴方がまだ私のところにいるって知ったらまたお姉様の機嫌が悪くなるわ」
「べっ、別にお前のためじゃないんだからな!?お前の母親について城を出たらこんなことになって、新婚家庭に俺一人いたって邪魔者なだけだから仕方なくお前についてきてるんだからな!?」
彼女は「はいはい」と気もなくイギリスをあしらい、また窓の外に目を向けた。そして溜息をひとつ。
「幸せって、家族以外なら誰がくれるものなのかしら」
幸せは誰かからもらうものじゃない、とイギリスは言いたかったが、ではどうすれば幸せになれるかなどわからなかったので、答えずにやっぱり窓の外を眺めることにした。




















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エリ様の生母は幽閉された後斬首という悲しい運命を辿りましたが、ヘンリ8世(エリ様の父親)の何番目だかの後妻が妾の子である彼女を王女の地位に復権させてくれ、母代わりとなっていたようです。
が、彼女はヘンリ8世が死ぬとすぐ昔の恋人と再婚したそうな。
ちなみにその恋人ってのはエドワードの母親の兄で、ヘンリ8世によってアメリカに左遷されていたそうな。
父親が死んで城にいられなくなったエリ様は養母に引き取られたんだけど、何故か養母の旦那寝取って追い出されたそうな。
ここは旦那の方をロリコンと考えるのが筋なんだろうけど、こんな話にしてみました。