マホガニーの机に向かい何やら書類と格闘している彼女を、イギリスは複雑そうに見つめていた。


「……何よ」
視線に堪えられなくなったのか、彼女は顔を上げる。
「…いや」
「そう」
じゃあ、出てって。そう言わんばかりの彼女の瞳に、イギリスは少し詰まる。が、そのまま彼女を睨み返す。

彼女は暫くの後視線を逸らし、手元のベルで侍女を呼び付けた。
「ドレイクを呼んで頂戴」
かしこまりました。若い侍女はしずしずと部屋を去る。

「ドレイク……」
イギリスの脳裡に浮かぶのは、大柄な黒髪の豪胆な男。
「いい加減にした方がいい。スペインがかなり怒っている」
「それが?」
彼女は書類に目を戻していた。あぁ、これだわ。彼女はその一枚を摘み上げ、呟く。ドレイクに言い付けておかなくては。配下の躾はもっとちゃんとしろ、と。
「スペインと戦争になるぞ」
「でしょうね」
彼女は冷静に応えた。それがイギリスを苛立たせる。
「…こんな」
「ヴァイキングに逆戻りしたようなやり方は気に入らない?」
言いたいことを先回りされ、イギリスの顔がかぁ、と赤く染まった。
「わかってるなら…」

「それでも我が国の財政は緊迫してるの」

海賊に頼ってでも何とかしなくては。


「足をすくわれかねない」


彼女は呟く。視線は書類に落としたまま。




「私は失敗するわけにはいかないの」




でなければすべてに申し訳がたたない……。

最後の方はあまりに小さくて、イギリスには聞き取れなかった。
だが、何を言ったのかは充分わかる。


イギリスはうなだれた。あの日の彼女に、謝るように。




ドレイク卿がお着きになりました。侍女の高い声が響いた。













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いわゆる私拿捕船の話。