「顔色が悪いぞ」

イギリスの声に、彼女はうつむけていた顔を少し上げた。その白くぬりこめられた美しいかんばせには、明らかに疲れがにじんでいる。


「うまく、できたでしょう?」

彼女はそれでも笑った。口の端を少し持ち上げ、品良く。


彼女はいつからこんな笑い方をするようになっただろう。


イギリスは苦々しげに口を開いた。
「……上出来すぎるくらいだ」
それは嬉しいわ。彼女の応えからは、彼女が本当に喜んでいるのかはわからない。

例の法律が議会で通った。
彼女の父親がほぼ自らのわがままで創ったと言える法を、彼女は通した。
批判の矢面に立ち、侮蔑の言葉を受け流し、僧侶を議会の間幽閉してまで。
国内の旧教と新教の争いはこれでおさめられよう。
だがそれにより、国外に敵は増える。

「教皇を敵にまわすぞ」
「わかってるわよ」
彼女は拗ねたように応える。
失礼します。いくつかの声がして、数人の侍女が部屋へ入ってきた。
「でも教皇自身に力はないわ」
力は、あまねく信者達のもの。
「もし攻めてくるとしても、フランスかスペインよ」
だったら同じだわ。彼女は笑う。また口の端を上げて。


イギリスは追憶のように想う。幼い日の彼女。恋に泣き、肉親の仕打ちに泣き、ほころぶように笑っていたあの頃。


「……お前は、どうして笑うんだ」
ふともれたイギリスの呟きに、彼女は少し瞠目する。イギリスは失態に気付くと、あたふたと顔を赤らめた。
その様子に、彼女はふっ、と表情をゆるめる。


「…泣いていても仕方がないでしょう」




だったら、笑っていた方がまだ良いでしょう。




「心配性ね」
そしてふわり、微笑んだ。それはあの日のはじけるような笑顔ではないにしても、おしろいの上の凝り固まったものをとかすには充分で。


イギリスもつられるように微笑んだ。





「さて、と。そろそろ出ていって頂戴。着替え覗くつもり?」
彼女のからかうような言葉に、イギリスは顔を真っ赤にして、何やらぼそぼそと罵声らしきものを呟きながら慌てて部屋を出ていった。








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統一法の話らしい。