あの頃は確かに彼を好きだと思っていた。ふわふわの金髪にきらきら輝く青い瞳、白磁の肌は何よりも眩しかった。人形のような整った容姿の彼は、いつもはその顔に似合った品の良い笑顔を浮かべていたが、スペインの前では良く悪巧みをしてにやりと笑った。いたずら好きなのだ。彼の場合スペインと違って、その美しい顔でにこりとすれば誰もが笑って許してくれるのだが。でもスペインはそんな彼の美しい笑顔よりも、にやりと口元を歪めた彼らしい笑いの方がずっと好きだった。山脈の向こうの隣国とは、一緒にたくさんの悪さをした。その頃この大陸のほとんどを支配していた大国は、二人のいたずらを知って良く「しょうがねぇガキ共だ」と二人の頭をがしがしとかき回した。大国の大きな手から笑い声をあげて逃げ出して、走って走って辿りついた木の影で、手を繋いで上がる息を抑えてキスをした。まだ生まれたばかりの頃。かの大国によって大陸は支配され、見せかけながらも平和が保たれていた頃。 もう少し時が流れて、二人の容姿が少年と称しても良いくらいになって。彼は輝くばかりに美しくて、相変わらずいたずら好きで。でもどことなくお高くとまったような態度が癪に障るようになった。彼は相変わらずいたずら好きだけれど、それはどちらかというと女性(同性もいたらしいが)との関係の方にご執心で、スペインはいつもそれにやきもきして、だが次第にやきもきするのもばからしくなった。この頃も、やきもきしていたということは、彼のことが好きだったのだろう。 その後はもう良く覚えていない。戦争したり同盟したりの繰り返し。そんな中でスペインはフランスとは別の相手と結婚して、彼と敵同士になったこともある。その時は当時の結婚相手を誰よりも愛していて、彼をぶちのめすことしか考えていなかった。その後様々な戦争の結果、彼の国の王朝がスペインの国の王家の跡を継いで同盟関係を結んだりもした。 さて、今はどうなのだろうとスペインは考える。 フランスは二人掛けのソファの右側で、右に倒れこむように頭を傾げて眠っている。倒れるなら自分のいる左側にすればいいのに、とその髭面を眺めながらスペインは思う。革命の動乱を経た後くらいからすっかり落ち着いて、かつてのわがままでいたずら好きの、輝かんばかりの美しい容姿を持った少年の面影はきれいに消えてしまった。今でも整った容姿をしているとは思うが、あの頃の中性的な誰もを惹きつけてやまない魅力はどこかへ行ってしまったように思う。手を伸ばし髪に指を通すと、昔よりも少し固く癖がついたようだ。 それでもフランスはまだこうしてスペインの隣にいて、スペインはこうしてフランスの隣にいる。 フランスの体が大きく傾いで、肘掛に頭をぶつけそうになったので、スペインはあわてて肩に手をまわし引き寄せる。その衝撃でフランスは目を覚ました。長い睫毛が二三度揺れて、ゆっくり持ち上がる。 「……あれ、俺寝てた?」 「ん、十分くらい寝とったよ」 「そう」 ごめん、と呟いてフランスはあくびをする。それを見てスペインは「人前であくびとかくしゃみとかよくできるな!」と嘲るように笑った少年の彼を思い出した。あの頃とはえらい違いである。 「何で謝るん?」 「退屈したでしょ、俺が寝てる間」 「そうでもあらへんよ」 考え事してた、と言うと、何考えてたの、とは聞かれなかった。 「俺のこと考えてた?」 にやり、と覚えのある笑みを浮かべて言われ、スペインは苦笑した。 「考えとったよ」 それを聞いてフランスは、へぇ、と勝ち誇ったように笑った。 「俺はまだお前のこと好きなんかなぁって考えとった」 「まだってどういう意味」 俺のこともう好きじゃないみたいに聞こえる。俺はこんなにお前のこと好きなのに。フランスは拗ねたように顔を背けた。 「好きなやつの前で寝るん?」 「好きなやつの前だから寝れるんだよ」 わかれよ、と言われ、わからへんよ、とスペインは返した。あまり意味のない言葉遊び。だがこんな時間がいとしいと思えるのは何故だろう。 「やっぱり俺お前のこと好きやわ」 「やっぱりってなんだよ」 フランスは笑った。つられてスペインも笑う。 あの頃の、何よりも美しい彼に焦がれた頃とは違うが、スペインは今の彼との関係を愛している。願わくば、彼も同じように思っていてほしいと、思えるほどには。 |
(そんなものはもう、どうでもいいから) ******************************** 若仏をひたすら美少女に書きたい。(願望) 兄ちゃんは甘やかし上手で実は甘え下手というマイ設定。 非常にどうでもいいな。 2009/6/27 |