※仏英・西ロマ前提 ※親分と兄ちゃんは普通に別れてる ※芋兄が無駄に出しゃばっている ※人間名表記です 「でも俺はずっと、お前はアントンとくっつくもんだって思ってたけどなぁ」 アーサーとうまくいったらしいじゃねぇか。厄介なのに捕まったな。まぁ、おめでとうって言っとくぜ。彼らしいひねくれた祝福の言葉の直後、ギルベルトはフランシスの心にぐさりと突き刺さる一言を言い放った。 「……どーいう意味」 せっかく気持ち良く旧友と呑んでいたのに。フランシスは何故か急激に気分が落ち込んでいくのを感じた。ギルベルトのこういうあけすけなところは嫌いではないが。 「どーいう意味って、そのまんまの意味だっつの。正直俺にはアントンがロヴィーノちゃんといちゃいちゃべたべたしてて、お前はお前で海向こうの元ヤン眉毛を甘やかしてる今の状況が理解できん」 「なんで」 「なんで……っておい。そりゃあ聞くようなことじゃないだろう」 だってお前ら、あんなに仲良かったじゃねぇか。ぐいっとビールを煽って、ギルベルトは息巻いた。頬がほんのり赤いが、このドイツ人は酒は強いので心配いらない。 「そりゃ確かに仲は良いが、そういうのとは違うって。俺とお前だって仲良いけど、そういう関係にはならないだろう?」 お前が良いって言うなら、お兄さんおいしくいただいちゃうけど。 「ばか言え。誰が」 「大丈夫、お兄さん今そんなことしたらアーサーに殺されちゃうから」 軽口を叩いて笑いあう。 「でもアントンとお前は違うだろう。お前らは寝る仲だった」 すっとギルベルトの表情が真面目なものに戻って、赤い目がフランシスの青い目を射抜く。 「俺はお前とも仲良いし、アントンとも仲良しだぜ?でもなぁ、お前らの間には入りこめねぇなぁと思ってたよ」 入りこむ気なんてねぇけど。フランシスはギルベルトがそんなことを思っていたなんてついぞ知らなかった。 「……ごめん」 「なんで謝るんだ?付き合ってる年数が違うんだから仕方ねぇだろ?」 ギルベルトはあっけらかんと言う。 「お前ら小さい頃からずっと一緒だったからな」 「……ずっとじゃないよ」 フランシスは呟く。アントーニョとは長い付き合いだけれど、敵対して戦っていた時期もある。 「……それが原因か?」 「え?」 「お前らが離れてた時期のこと」 ギルベルトは何杯目かのビールを注文した。店員の威勢の良い声がする。だが今のフランシスには店員の声も店内の喧騒も耳に届かなかった。 黙りこんでしまったフランシスを、ギルベルトは新しいビールをぐいと煽りながら静かに待っている。 「……そうだね。そうかもしれない。でも、それだけじゃないよ」 ようやくフランシスが口を開いた。いつもの無駄に自信に溢れた声とは違う、小さな声だった。 「知ってるか?まだ子供の頃、あいつ俺にプロポーズしてきたんだぜ」 あいつ俺のことかなり長い間女の子だと思ってたから。まぁ、俺めっちゃかわいかったから仕方ないけど。 「嬉しかったのか?」 「そりゃあもう」 嬉しかったよ、とフランシスは苦笑いしながら続けた。 「でも時代はそれを許してくれないってやつだったわけ」 「ふぅん、で?」 一音で続きを要求した旧友にフランシスは内心で舌打ちする。本当に彼はごまかしがきかない。 「……笑うなよ」 「笑わねぇよ」 酒が入っているはずなのに、ひどく真剣に返事をしたギルベルトに、フランシスは少々大袈裟ではあるが、意を決して言った。 「それ以来、俺はあいつが俺以外を見るたびにそのことが頭を過ぎって、」 俺のこと好きって言ったくせに、って。 「いらいらして、あいつのこと何とも思ってないと思いこもうとして、他に恋人つくって、でもふとした瞬間にあいつのこと思い出して、恋人と別れて」 あいつが誰かと幸せそうにしているのが許せなくて、それを許せない自分も許せなくて、 「そんなこと繰り返してたら、気付いた時にはどうしようもなくなってた」 笑うなら笑えよ。フランシスは苦笑した。 「……アーサーだって、昔は色々あっただろう?」 「それは昔のことだって割り切れるんだ。俺にも色々あったし、アーサーもそれをわかってくれてる」 でも、とフランシスは自嘲気味に続けた。 「アントンがわかってくれるとはどうしても思えなかった」 あいつが好きなのは幼いきれいな俺だから。 「どうしようもないんだよ。もうどうしようもない」 呟いて、フランシスはグラスを煽った。 「ロヴィーノはいい子だよ。ロヴィーノはきれいだ。アントンはあの子と幸せになってほしい。最近ようやくそう思えるようになった」 大分酔ってるな。フランシスにしてはあまりに舌足らずな声を聞いてギルベルトは思った。こんな彼を見るのはめずらしい。 「俺さ、一昨日アントンと呑んだよ」 ギルベルトが静かに告げると、フランシスは「ふぅん」と興味なさ気に言った。 「で?」 「フランシスがアーサーと付き合い始めたらしいぜって言った」 フランシスは押し黙った。二つの青い瞳がじっとギルベルトを見つめる。 「知ってる、って言われた」 まさか顔合わせたら喧嘩ばっかりのあいつらがそんなことなるなんて夢にも思わんかったわー、だとよ。 「お前に最初に言ったのと同じことアントンにも言ったぜ。ずっとフランとくっつくもんだと思ってたって」 そしたらあいつ何て言ったと思う? フランシスは黙ったままだ。気にせず、ギルベルトはアントーニョの口調をまねて淡々と告げた。 「俺昔本気であいつのことすきやったんよ。でも」 あいつが他の娘とか男とおるの見るといらいらしてもうて、あいつにつらく当たってもうて、そんな自分が嫌やからあいつと距離おくんやけど、そうするとまたいらいらする。 「そんなことしてたら、もうどうにもなんようになっとった、だとよ」 フランシスは静かに目を伏せた。金色の睫毛がかすかに震えているのを横目で見ながら、ギルベルトはジョッキを空にした。 「ばかだな、お前ら」 ぽつり、静かに呟いて、ギルベルトは店員を呼ぶ。ビール追加、あと、水一杯もらえるか? 「……お前は俺達をどうしたいの」 フランシスは顔を上げぬまま問うた。 「別に、ただ、幸せでいりゃあいいと思ってるだけだ」 「……ジリーは優しいよね」 ふん、と照れ隠しに鼻を鳴らしたギルベルトを見て、ようやくフランシスは顔を上げた。少し歪んでいたが、それでも微笑んでいた。 |
****************************** 難産でした。 愛称で呼び合ってる悪友とか考えるだけではげもえる。 2009/7/8 |