広い防音室の中、ピアノの音が響く。細かい音が連綿とつながって、ひとつの曲を作り出している。
最後に少し盛り上がりを見せて、曲は静かに終わった。
「……で、貴方は何をしているんですか」
音が止んでしばし、弾き手はくるりと振り返った。
椅子にもたれかかるように床に座っていた人物を見て、オーストリアは不快そうな表情をあらわにした。
「ん、お前のピアノ聞いてたんやけど」
「聞くならちゃんと椅子に座って聞きなさい。このお馬鹿」
へらり、笑ったスペインを、オーストリアは一喝する。
「あー、なんかイタちゃんが昔お前にそんなようなこと言われたって言っとったなぁ」
「そうですね、言いました」
イタリアに出来ることが、貴方に出来ないわけないでしょう。オーストリアは続ける。
「まぁでも、俺はお前にそんなこと言われたことないからなぁ。お前のピアノこうしてゆっくり聞くのも初めてやし」
えぇなあ、イタちゃん。こんなの毎日聞けたわけやろ?スペインが本当に羨ましそうに言うので、オーストリアは少し頬を赤らめた。スペインが何のアプローチもないのに人を褒める時は、それが心からのものだとオーストリアも気付いている。
「……あの頃は、まだピアノなんてありませんでしたから」
あの頃、と口にして、オーストリアは顔を歪める。が、決して思い出したくもないというわけではない。ほんの照れ隠しということは、スペインもわかっている。
「なぁ、オーストリア」
もう一曲弾いて?スペインがねだると、オーストリアは「仕方ないですね」と呟きながらも、軽やかに鍵盤に指を置いた。













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ほんとは同居時代の話にしたかったんだ。
でもウィキペ先生で調べたらピアノができたのって18世紀っていう罠。




2009/4/14