「お兄様から離れていただけませんか」



中国はひどく澄んだ声に呼び止められた。他に人の気配のない廊下の中ほどで。もとよりこの屋敷に人はほとんどいないけれど。
声の主は透き通った氷を思わせる肌と髪と瞳を持つ少女。
今この屋敷にいるのは、屋敷の主と、主の妹であるこの少女と、主の招きを受けて来た自分のみ。
「……それはどういう意味あるか」
中国がつとめて落ち着いた風に返事をすると、
「言葉通りの意味です。お兄様から離れていただけますか」
先ほどと同じことを繰り返された。
「……離れろ、と言われても」
中国は半ばあきれたように言う。我が此処にいるのは、あいつが呼び寄せたせいあるし。
中国が「あいつ」と口にした時、少女の柳眉がぴくり、とかすかに歪んだ。が、すぐにもとの無表情に戻る。
それに気付いた中国は、さらにあきれた表情になった。愛しい兄を取られてご不満か、小娘。黒い瞳がそう告げている。
「……貴方といる時のお兄様はとても幸せそうです」
それに気付いたのか、少女は相変わらずの無表情で言った。
「それは私の望むところですわ。私はお兄様が私と結婚してくださればそれで良いの。他に誰がいたって」
それを聞いて中国は少し驚いた。が、それを表情に出すようなことはしない。
「でも、貴方はお兄様に近付きすぎた。かつてあんなに手酷く裏切ったくせに」
「……前ほどじゃないはずあるが?」
少女はかぶりを振って続けた。
「いずれそうなる」
「…………」
「そうなったら、お兄様は貴方無しじゃいられなくなる。お兄様は貴方がいなくなったら壊れてしまう。それは私の望むところではない」

「だから、そうなる前に」

「……無理な相談あるね」
中国が告げると、少女は鋭く中国を睨みつけた。
「もう引き返せないあるよ」
中国は苦くも見える笑みを浮かべ、ひらひらと手を振った。
「安心するよろし。お前のお兄様が壊れるときは、我も壊れてるある」
「…………」
少女はそれきり押し黙ってしまった。
中国は軽く嘆息して、「じゃ、話は終わりでいいあるね」と一応声をかけて、それでも反応がないので足早にその場を去った。





中国の姿が見えなくなったところで、ふいに少女は呟く。
「……引き返せないのは、まだ貴方だけでしょう」
お兄様は慎重な方ですもの。

「今貴方が壊れてくれたら、お兄様は壊れなくて済むのに」











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全力で依存しあってる露中ってどうよ?という妄想と、ベラたん病みかわいいよね!という嗜好を混ぜてみました。
イメージとしては中→→←露←←∞←←ベラな感じ。ポイントは中国さんの矢印のが多いこと。
あとはベラたん書きたかっただけです。(笑)






2008/1/5