スペインは良くロマーノの口の端、唇を少し外れたところにキスをする。それがいつも左側ということも、ロマーノは気付いていた。大概情事が一段落ついた時、ロマーノが余韻に動けずにいるのを見計らったようにするのだ。くすぐったくて、ロマーノが身を少し捩りスペインを睨むと、スペインはどこか嬉しそうに微笑んで(マゾか)、それからあらためて唇にキスする。別にそれが嫌いというわけではない。スペインに触れられるのは、絶対に口には出さないが、好きだ。それがどんな形であっても、実は。 だが、どうして其処なのかは、ずっと疑問に思っていた。 ある日唐突に気付いた。スペインは、其処にあるほくろを追っているのだと。口元にぽつりと浮いた黒いほくろ。もちろん、ロマーノの口元にほくろは無い。スペインはいつもこう言ってロマーノの顔に頬擦りする。ロマーノの肌はしみ一つなくて本当にきれいやんなぁ、と。左の口の端、そこにほくろを持つのはオーストリアだ。スペインのかつての結婚相手。あの品の良い、美しい国。スペインが昔彼を愛していたことをロマーノは良く知っていた。彼を愛するスペインを、一番近くで見ていたから。 今スペインが愛してくれているのは自分だということは解っている。スペインは何とも思ってない男に愛を囁けるほど器用ではないし、相当に一途な性質だ。だからこそ、解るのだ。スペインが口の端にキスするのは、無意識なのだと。オーストリアを愛していた時についてしまった癖で、自分でもそんな癖があることすら気付いていないのだと。 ロマーノがそれに気付いたからといって、何ができるわけでもない。それを口に出して指摘したところで、きっとスペインが困るだけだから。きっと驚いた顔をして、哀しそうに、ごめんなぁと、そう言うだけだから。だからロマーノは何も言わない。何も言わずに、スペインのキスを口の端に受ける。そして何とか顔が歪みそうになるのを堪えて、スペインを睨みつけるのだ。そうすればスペインは微笑んで唇にキスをくれるから。 浴室でロマーノは鏡を前にして、左の口の端をゆっくりとなぞった。爪をたてると、赤く痕がついた。そういえば、昔まだ小さかった頃、トマトソースを口からこぼして、スペインに良く笑われた。笑って、スペインはハンカチでロマーノの口の端を拭ってくれた。 そんなことを思い出して、なんだかどうしようもなく泣きたい気分になった。 |
***************************************** こう、親分にとっては昔のことなんだってわかってるのに、墺に嫉妬しちゃうロマが好きです。← お前はそんなにロマをいぢめたいのか。その通りだ。(オイ もちろんそんなの誰にも相談できないから、一人もんもんとしちゃうロマ。 良いではないか。 受けはひたすら泣かせたい性分です。生きてて大変申し訳ありません。 タイトル提供→is様 2009/3/4 |