かはっ、と漏れた息の音で、イギリスは我に返った。
「……誰の首を絞めているのですか」
いたって冷静な声が組み敷いた先から聞こえた。
黒い瞳、黒い髪……だが髪は思ったより短く。
「…………日本……」
「えぇ、日本です。イギリスさん」
誰とお間違えで、と日本は何の感情もこもっていないような瞳でイギリスを見た。見上げられているのに睥睨されている気分だった。
「我が兄とお間違えですか、イギリスさん」
機械のようにたんたんと日本は続ける。
「あなたが薬で骨抜きにした、我が兄とお間違えですか」
「薬で手に入れた我が兄はいかがですか」
「美しいでしょう」
「麗しいでしょう」
「あの方は昔からそうでした」
「でも、あなたのものになっただなんて、そんなことを思いなさるな」
一瞬光がひらめいた。日本が懐刀をイギリスの喉元に突きつけていた。
「あなたが兄上の何を知っている」
「兄上はあなたが知っているほんのわずかの時間などではわかるまい」
「皇帝の横で不敵に微笑んでいたと思えば、突然平民のような格好をして畑を耕していたこともある」
「何千年の時を共にした私でさえ、時々兄上が見えなくなるのに」
「思い上がるな」
「自惚れるな」
「たかが兄上を抱いたくらいで」
「……うるさい!」
叫んだイギリスを見て、日本はゆるく笑った。
その笑みはかの東の大国を思わせた。